Strategic Investigation Comprehensive Cancer Network

お知らせINFORMATION

04.102017

「アジアでがんを生き延びる」講義スタート

講義の全体像について

1)大学の講義の中でのこの講義の位置づけ
学際授業であり、これまで専門的な分野の中でしか捉えられていなかった課題を
様々な領域の学生で学ぶ講義です。学生は自分の専門分野以外の学びを通して、自分の学びを相対化する機会でもあります。
癌領域は専門性が高く、これまで必ずしも他領域との連携がうまくいっていたわけではありません。社会課題に対応したイノベーションの創出が問われる時代の大学の役割として、当該領域の研究の推進力になるような次世代の文理融合人材の開発を目指す講義として位置づけられています。

2)この講義の背景と意義
急増しているがんというアジアの共有課題を巡る問題を、UHC(Universal Health Coverage)というグローバルな政策概念にてらして、学際的に学ぶこれまでにないアプローチです。
我々はアジアの特性を欧米と比較検討をすることで、アジアを中心とした国際癌研究の向上に寄与することを目指してきました。この授業は、こうした取り組みの一環です。

3)受講者の到達目標
アジアのがんの現状とUHCの政策概念の意味を理解し、UHCがアジアのがんにもたらす意味を考察をし、参考文献として出された論文の内容の理解を踏まえて、アジアのがんにおけるUHCのあるべき姿についての自らの意見を発表する。

4)学びのプロセス
7月末までの講義により、アジア社会におけるがんの現状と課題と、UHCという政策概念の意味と具体的な事例について学ぶ。


学びの視点を考える

4/10 吉見俊哉 (東京大学教授)私たちの未来はどこに向かうのか
―学際研究とアジアのがん
4/24 波平恵美子(お茶の水女子大学名誉教授)質的研究への批判的評価と対応
―「エッセイ」とみなされないための課題とは?
5/8 五十嵐中(東京大学准教授)ポスト・トゥルース時代の医療経済

アジアの癌医療の現状と課題

5/22 赤座英之(東京大学特任教授)Cross-boundary Cancer Studies
5/29 粟田浩(小野薬品工業株式会社副社長)社会課題とイノベーション
6/12 平野宏一(株式会社ヤクルト本社執行役員)癌予防と社会

現実世界と研究世界の邂逅

6/19 服部幸應(学校法人服部学園理事長)食と文化とやまい
6/26 河原ノリエ(東京大学特任講師)アジアの地域コミュニティーの中のがん
7/3 中谷比呂樹(慶應大学特任教授)国際保健の中のがん

世界の構造を見つめる

7/10 特別授業 東京大学現代韓国研究センター共催授業
藤崎一郎(上智大学特別招聘教授 前米国駐箚特命全権大使)
日本・アメリカ・アジア 国際社会で生き延びるということ
鼎談 -いま私たちはどんな時代を生きているのか?
藤崎一郎×吉見俊哉×赤座英之
グローバル化と格差拡大の流れの中で、突如世界を席巻しているポスト・トゥルースという感情や個人的な信念により人々が動いていくという不確実な渦の中、私たちが直面している世界のありようを読み解いていく


7/24 学生発表
5)評定
評定は、
「出席」
「毎回授業後に提出する短いレポート」
(講師からの質問への回答で、形式は自由です。オムニバス形式で授業が進むので、毎回の授業を理解して次の授業との関連を自分で見つけるために、自分の思考の整理のつもりで必ず取り組んでください。
このレポートについては、内容は評定に影響しません。出すか出さないかが評価です。
最終レポートでいい内容のものを書くためのメモとして考えてもよいでしょう。)
「発表」
「最終レポート」


6)私達の問題意識
2009年筑波のAPCCでアジアのがんを巡る会議を開催しました。
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その後、我々は継続して国際会議を開催してアジアのがんを巡る社会課題について議論を重ねてきました。
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2015年のニューヨークの国連本部でMDGs(国連ミレニアム開発目標)」に代わる「SDGs(持続可能な開発目標)」が全会一致により採択され、そのなかの目標のひとつとしてUniversal Health Coverage (UHC)という概念が注目を集め始めています。
UHC(Universal Health Coverage) とは、全ての人々が質の担保された保健医療サービスを享受でき、サービス使用者に経済的困難を伴わない状態を指す概念です。

現在国際社会においては、グローバルな政策合意としてみとめられたこのUHCの達成に向けた投資を行うイニシアチブやアクションが数多く提案されています。ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ戦略の実施には、 予算配分や保健医療従事者への投資を含め、プログラムの設計や実施の決定 に影響を及ぼすステークホルダーの関与がかかわっています。それらはどれも、従来の感染症を主体とした疾病構造へのプライマリ・ケアへの対応に基づくもので、今後アジアで急増して大きな社会経済的負担になっていくことが予想される癌という疾病には、対応しきれないであろうことが予想されます。なによりも、他の疾患と異なり膨大なコストがかかる癌医療におけるUHCの実施には、各国の財政基盤と保険医療制度の制度基盤を必要とされるため、大きな困難が伴います。
癌医療の進展は目覚ましく、癌は治る可能性の高い疾病となったいま、その発展をすべてのひとが享受できるわけではないこと、また、先進国においても限られた医療資源のなか、できる限りのことがいつまでできるのかという悩ましい課題が突きつけられています。まさに癌医療におけるUHCというグローバル課題を考えることにおいて、先進国と途上国の課題がクロスしたのです。がんという疾病はその疾病の特徴から、そのひととその周辺に大きなインパクトを与える病です。高齢化社会を迎え、人類がこれほどまでにこの重篤な病にさらされた時代はありません。持続可能な社会を考えていくうえで、社会経済状況の異なる人々が、ともにこの癌という疾病とどう向き合って生き延びていくかを考えていく智慧を生み出していかなくてはなりません。

アジアで急増しているがんのためにはUHCの実現が喫緊の課題でありますが、医療格差も大きく、国ごとの社会保障制度の異なるなか、まさに課題は山積しています。
しかしながらこうした困難な課題であればこそ、様々な門領域に根ざした学生さんたちの新鮮な視点がこの難局を切り開いてくれることを期待しています。